2014/01/15

WHAT IS HARDCORE?


・「HARDCOREってなんなの?」


これを記すのに価値があるのかどうかわからない。
音楽ジャンルというのは正解がない不確かなものである。
それを文字にするなんて無意味で愚かだ。
そんな小さなこと気にするな、とりあえず聞け、という意見ももっともである。
こんな偏見に満ちた鑑定をして、文化という抽象的なものを判断するなど言語道断。
音楽は読むものではないし、談義自体に価値は無い、
さっさと新しい音源を探しにいくべきだ。

私も心からそう思う。

しかし、分類から逃げた結果、誤解を生じシーンを縮小させるのもまた悲劇なのである。
一リスナーとして長年熱狂し、フロアを興奮させ小躍りさせた一人のDJの責務として、
ここに私の考察を残しておきたい。





・「GABBER/GABBA/ガバ」という呼称について。


これには日本独特の事情がある。
その説明の為に、まずは細分化されたハードコアというジャンルを理解する必要がある。


・「HARDCORE/ハードコア」


オランダ、イタリア本国で今現在(2010年代前半)「HARDCORE/ハードコア」と称されるのが、
このブログで主に扱う音楽である。厳密に言うとガバではない。
あえて明確な区別を言葉でするならば「MAINSTREAM/メインストリーム」と呼ばれている。
他ジャンルとの区別をする文脈の場合、メインストリームでなくともハードコアと呼称する。
また技術的な側面でハードコアの定義として最も重要なことが2つある。

>「BASSDRUM KICK=HARDCORE KICK」という特徴的なキックが使用されている
>BPMが170前後を中心として150程度~200程度(またはそれ以上)と、一般的なヒットチャートのダンスミュージックに比して高速であること

こちらは聴いてもらえば間違いなくわかるはずだ。


・「MAINSTREAM/メインストリーム」


または「MAINSTYLE/メインスタイル」と呼ぶことも。
これにはHARDCOREという抽象的な大枠のメインストリーム(本流)という意味だけでなく、
今現在の先進国における音楽の様々な主流、
TRANCE、EDM、DUBSTEP、HARDSTYLEといったクラブシーンのTOPチャートから、
HIP HOP、R&BをはじめEMO、LOUDROCK、METALに至るまで、
これら様々な音を所謂ネタとしてハードコアに嵌め込んで積極的に使うことも同時に指す。

それまでとガラリと変わり今現在の音として定着し始めた時期に(2006-2009頃)
「PRESENT HARDCORE/プレゼントハードコア」と表記されることもあったが、
フェスにおいてオールドスクール、アーリーレイヴと大別する為のエリア毎の名称であったり、
(少なくともNIGHTMARE OUTDOOR 2005には既にPRESENT AREAがあったみたい)
CDのタイトルで使われたりするぐらいであった。

更に遡って1990年代末から2000年代前半には、
後述のGABBERからの進化で「NEWSTYLE/ニュースタイル」という呼称がなされていた。
世界的なトランスのブーム、シンセリードの使用、BPMも150~165程度が多くやや遅い部類。
BPMの低下と共に今のようにキックが詰まり重くなっていった。
三連符のリズムの曲が増え、結果的にダンスステップの為の曲という側面も生んだ。
日本では音楽ゲームの影響で「NuStyleGabber」という表記がお馴染みである。
2000年代後半までNEWSTYLEという名前は細々と使われていたが、
次第に廃れていきHARDCOREという名称に落ち着く。
また同時期に「HARDSTYLE/ハードスタイル」が生まれている。


・「RAVE CLASSIC/レイヴクラシック」


ハードコアにおけるオールドスクールがこちらにあたる。
日本においてはレコード会社が名付けたROTTERDAM TECHNOという呼称、
そしてジュリアナテクノとしても非常に有名。
90年代当時においてはこれらの音がハードコアと呼ばれていたことを忘れてはならない。


・「EARLY RAVE/GABBER/アーリーレイヴ/ガバ」


1990年代中期にそれまでのレイヴサウンドから高速かつ攻撃的に進化した。
GABBERというジャンルの誕生、そして確立である。
オランダだけでなくドイツイタリアアメリカ等でも流行が生まれた。
909のキックにディストーションをかけ歪ませたガバキックというものが特徴的で、
ROLAND ALPHA JUNO2のシンセやギターサンプリングが多用される。
この辺の技術的なことに関しては他サイトに詳しいはず。

ハードコアを聴かない層にガバと認知されるのは主にここの時代の音である。
日本でも90年代末に局所的とはいえ熱狂的なブームが巻き起こったことが大きい。
2000年に入り、音楽技法としての毛色が変わったNEWSTYLEがヨーロッパで流行しても、
現在のメインストリームを知らない人からは必然的にガバと言えばこの音であるし、
今のハードコアもガバと呼ばれるのである。(日本だけでなく世界的に!)
区別をする為に現在は主にEARLY RAVEと呼ばれる。


・「HAPPY HARDCORE/ハッピーハードコア」


ガバが先かハッピーハードコアが先か、はたまたハッピーガバか。
作っている人も聴いている人も同じ、RAVEサウンドを根っことして密接に絡まった関係である。
英国のレイヴシーンで火がつき盛り上がった。
そしてガバと同じく90年代末にブームが落ち着くも、
世界的なトランスブームと共に、その音を吸収したUKハードコアに流行は移り変わる。


・「UK HARDCORE/ユーケーハードコア」


イギリスで一大ムーブメントを巻き起こした「UK HARDCORE」。
今2014年現在の最先端の音であり、洗練された音楽は日本でもよく知られている。


・「J-CORE/ジェーコア」


ジェーコアというのは音楽的技法ではなく文化的視点でのジャンル名である。
ガバ全盛期、ハッピーハードコア全盛期に日本でも多くの曲が生まれた。
また一部のクリエイターは日本のカルチャーをネタとして曲に織り込んだ。
ゲームやアニメといったものオタク的要素のあるものがネタにされることが多く、
ある意味にシュールな笑いにも通じた「NARDCORE/ナードコア」なるものも生まれる。
2000年代後半からはUKハードコアの技法を吸収した高い音楽性を誇る曲が次々産まれる。
音としてはUKハードコアなのだが、ネタのチョイスが日本のものであったり、
日本人による日本語Vo.及びボーカロイドを使ったりと、文化的な目線ではまさしくJ-COREだ。
日本人クリエイターはUKハードコアを自称することもあるし、Jコアを自称することもある。
またメインストリームやそれに準じるジャンルといった大陸側に近い音楽を生み出しても、
ネタのチョイスやCDのジャケといった環境次第でJ-COREであると同時にHARDCOREとなる。
海外から見て、日本人が作ったのだからJ-COREという意見もある。
大変ややこしい。


・「FRENCHCORE/フレンチコア」


フレンチコアという更に高速の音楽ジャンルがある。BPMにして190-220。
ある意味ロックでありハウスであるGABBERをインダストリアルなテクノとして再構築した。
フランスのレイヴシーンで発達したストイックな音楽ジャンルである。
このジャンルの主なアーティストを列挙してみよう。

THE SICKEST SQUAD (イタリア)
THE SPEED FREAK (ドイツ)
RADIUM (フランス)
PRODUCER (イギリス)
DJ MUTANTE (カナダ ケベック州)
DJ X-Fly (イタリア)

フレンチコアとは言いつつ出身、国籍は多岐にわたるのである。
これはシンセでキックを作り歪ませるというフレンチコアならではの音、作り方であり、
技法としてもジャンルとして確立しているからと言える。


・「GABBER/GABBA/ガバ」という呼称について。


イギリスでハードコアといえばUKを指し、
オランダ、イタリアでハードコアといえばメインストリームを指す、
しかし述べてきた通り、日本においてのシーンは全く別物であり、
UK HARDCOREとJ-CORE、はたまたMAINSTREAM、それぞれが並び立っており、
本国のHARDCOREであろうと区別するためにガバと呼ぶことがままある。

あくまで、現地のレーベル、DJ、リスナー、WEBSITEはHARDCOREと自称している。
日本独自の事情はあるものの、私は敬意を評し、倣ってHARDCOREと呼びたい。





・音楽ジャンルの定義の意味。


述べてきたとおり音楽ジャンルには2つの側面がある。

1つ目は、適切な音色・素材・サンプリングといった楽しむ為の技術・手法的な側面。
2つ目は、音楽の背景にある人種、社会の文化的な側面。

ハードコアに関わらず日本においてジャンルというのは1つ目のみ言及されることが多い。
社会情勢へのカウンターカルチャーだったりという側面は単に知識でしかないのだ。
あくまでダンスミュージックは輸入されるモノ、与えられるモノであると認識している証左である。
それでは全く理解していることにはならない、歪な関係である。
音楽の中の要素やルールを言語化することは、
あやふやな概念を無理矢理に言葉の枠に当て嵌めているに過ぎない。
ジャンルだけではない、曲名や作曲者といった情報すらだ。
そうして一面的にでも自分で扱えるようにすることで、音楽は人々へ伝わる。
きっと素晴らしい時間をあなたへ与えてくれる。論議から産まれるひらめきだってあるだろう。
だが現代のジャンル定義の氾濫は負の面も大きい。
消費していくのだけが簡単になり、音楽を有益に扱うことにやたら慎重にならないといけない。
単純に「こーいう音だからこういうジャンルだ、そうだそうに決まっているそうに違いない。」
そう妄信する音楽の価値とはなんなのだろう。
音楽を通じて広がる多くの見識・体験こそが、音を楽しむということであるべきだ。


日本の独自の近代音楽文化とはなんだろうか、
演歌、フォーク、パラパラ、J-CORE、アニメソング、がそれに当たる。
こう明示されれば、言葉に出来なくともなんとなーく文化の土台まで想起出来ないだろうか。
詳しい説明はここではしないが、好奇心のある人は是非探求するのも良いだろう。
ついでにこっそり教えてくれたらありがたい。



2014/01/15 Azsa